木田 裕也 院長の独自取材記事
Kクリニック
(豊中市/岡町駅)
最終更新日:2026/09/04
豊中市の住宅地に2018年開院した「Kクリニック」。バス通りに面しながら看板がないのは、がんの末期、再発患者に加え、輸血や人工呼吸器が必要な人など、重症の患者を中心に扱う在宅医療を専門とするクリニックだから。院長の木田裕也先生は、滋賀医科大学卒業後、滋賀県立総合病院などで研鑽を積み、消化器のがんの手術に多く携わってきたが、在宅でもレベルの高い治療を提供したいという思いからこの道に進んだ。「入院しなければいけないラインの見極めが大事」と話しつつも、「しっかり評価をしてみたら、意外に在宅で対応できることが多いですよ」と言う木田先生。重症、難病の患者を診るための取り組みや、これからの北摂地域の在宅診療にかける思いについて聞いた。
(取材日2026年3月10日)
重症の患者を中心に専門的な在宅医療を提供
クリニックの特色はどのようなところでしょうか?

一般的な訪問診療だけではなく、重症の患者さんも診ることができるところです。がんや呼吸器の病気や神経難病など、緩和ケアや適切な状態管理が必要な患者さんを中心に、24時間体制のサポートを提供しています。輸血や人工呼吸器、医薬的麻薬の投与などにも積極的に対応。人工呼吸器の一歩手前の非侵襲的陽圧換気(NPPV)も在宅で管理しています。がんの末期であっても症状はさまざまで、薬を使わずに過ごせる場合もあれば、かなり強い鎮痛剤で痛みの緩和を図る必要がある場合もあるので、一人ひとりの状態に合わせて管理しています。当クリニックは看取りの実績などの条件を備えた「機能強化型在宅療養支援診療所」として診療を行っています。
重症患者を在宅で診るために、さまざまな機器を備えているのですね。
心電図、エコーといったポータブル検査機器を充実させています。訪問診療では採血をするだけで、何かあれば入院をして検査をしなければいけないというところもありますが、ポータブル機器があれば在宅で診ることができます。特にエコーは最近新しいものを導入しました。画像はワイヤレス接続でタブレットを使ってクリアに見ることができます。また、在宅での診療で取り入れているところは少ないですが、難治性腹水に対するCART療法(腹水ろ過濃縮再静注法)にも対応可能です。たまった腹水を抜き、必要な栄養だけ残して体内に戻す治療で、緩和ケアの一つです。ただ、肝硬変に伴う腹水には適した治療法ですが、がん性腹水のある方は慎重にならなければならないなど、コントロールが難しい面もあります。タイミングや腹水を抜く量は人によって異なり、教科書はありません。保険適用の治療ですがハードルは高く、専門性の高い知識が必要となります。
難しい医療を在宅で実現できるのはなぜですか?

三次救急の病院での経験が非常に大きいですね。主に、膵臓や肝臓といった消化器がんの手術や、ICUで救急の管理もしていました。非常にハードでしたが、若い頃から任せていただきました。いろいろな患者さんを診て、一人ひとりに対してさまざまなことを自分でしないといけないという環境で培った知識や経験があるからこそ重症患者さんに対する在宅管理を可能にしていると思います。
多職種が連携するチームでのケアを実施
多職種での連携も求められますね。

これまでの経験から「これを見逃してはいけない」というものはわかっていたので、重症に移行しそうな症例の見極めにはそれほど困ることはありません。一方、がんの場合はせん妄が出る場合、高齢患者さんの場合は認知症を発症している場合もあるため精神科については専門の先生に加わってもらい、安心して治療を受けてもらえるように体制を整えています。また歯科とも連携しており、嚥下機能の評価が必要な患者さんを診てもらっています。歯科には管理栄養士もいて、食事や栄養についてアドバイスも行っています。医療者同士、連携して互いの質を上げていきたいと思っています。
チームの連携で気をつけていることは?
在宅医療では、医師による治療以上に、看護師やヘルパー、理学療法士との関わりの方が非常に大切と考えています。当クリニックの系列である訪問看護ステーションとケアプランセンターと連携。重症の方は訪問看護も活用してもらい、医師が週に1回、看護師が週に3回ほど伺います。訪問看護師は、重症の患者さんに対しても適切にさまざまな手技をすることが求められ、ご家族に対してのケアもできるよう訓練を重ねています。またご家族に不安を与えず、より密にコミュニケーションを取るため、看護師やケアマネジャーと情報共有。患者さんのご家族を不安の渦に巻き込まないためにも、どういう治療で、どういった目的でやっているかを理解して、関わる全員が同じ方向を向いて進められるように密に連携しています。また「患者さんやご家族がこういうことを話していた」ということはしっかりフィードバックしてもらうようにしています。
患者さんとの接し方で心がけていることはありますか?

必然的にご家族とお話しする機会が多くなります。重症の患者さんが多いので、ご患者さんの状態と、本人やご家族の希望を最大限に聞きながらも、どんなリスクがあって、今後どうなるかということをしっかりとお話しするようにしています。在宅医療は、病院で行う治療とはまた異なり、治療に至るまで懇切丁寧な説明が必要ですし、治療の進み具合や検査結果の説明など、都度都度手順を一つずつ踏んでいかないと、ご全員が納得する結果にはなりません。またいくら医療面では適切な在宅診療ができても、介護面で家族が大変で倒れてしまうこともあります。そういう場合は、ヘルパーさんを週に何回か入れてもらったり、患者さんに入院していただいたほうがいいですよと助言をしたりするようにしています。在宅で看ようというご家族は頑張り屋さんが多く、なかなかヘルプのサインを出せない方もいます。キーパーソンとなる方の表情はよく見るように注意していますね。
患者と家族に寄り添い、希望を持てる在宅診療へ
医師をめざされた理由についてお聞かせください。

小学生の時、テレビで心臓の手術を見て「かっこいい」と思ったことがきっかけで、手術をしたくて医学部に入りました。かっこいいという憧れから志したのですが、実際にやってみると、想像していた一子相伝の世界ではなく、今では教科書やビデオ教材も充実しています。手術の手技についてうまくなりたい一心で、寝ている時間以外は極力手術のことを考えイメージトレーニングをして、土日もラボで腹腔鏡の練習をするなど努力もしました。専門にしていた腹腔鏡を使う手術では技術を磨き、手順をしっかりとこなしていく中で外科専門医の認定も取得し、外科で行われる難易度の高い手術を数多く執刀するようになりました。その中で、「外科医師は技術職。それよりもいろいろなことを知っていて、いろいろな病気を持っている患者さんを診られるほうが医師らしいのではないか」と思うようになりました。
外科医師から在宅診療の道に進まれたのはなぜですか?
がんは手術をしても、転移や再発で完治がめざせないという患者さんが多くいます。そういった患者さんが抗がん剤も使えないようになると、今のわれわれのような在宅での療養や看護ケアに移るのですが、当時の僕は手術を行っても、その後患者さんがどのように過ごされているのか知りませんでした。私の親戚は膵臓の病気で退院できず病院で亡くなりました。そのような中、訪問診療のアルバイトで同行した施設で、がんの末期や再発の方の診察が十分に行われていない実態を目の当たりにしました。手術では術前術後も含め500ほどの手順を踏んでいるのに、その後のギャップに衝撃を受けました。在宅ではなかなか受けにくい輸血や酸素療法、点滴も、手術では当たり前の処置。在宅診療でこそ他の人にはできないような自分の力が発揮できるのではないかと、この道へ進みました。
今後の展望と読者へのメッセージをお願いします。

整形外科の診断・治療以外は、どのような方でも診られる体制を整えています。重症の方でも在宅療養ができるということを患者さんやご家族にも知ってもらいたいですね。「これだと在宅では無理かな」と思われていても、意外にご自宅にいながら対応ができることもあります。個別にお話ししてみないとわからない部分もあると思うので、お気軽に相談をいただければと思います。

