小島 敬史 院長の独自取材記事
立川駅前おといろ耳鼻咽喉科
(立川市/立川駅)
最終更新日:2026/10/08
立川駅から徒歩2分、クリニックモールビルの3階に「立川駅前おといろ耳鼻咽喉科」はある。木目を基調とした落ち着いた院内は洗練された空間で、駅前の喧騒が届かないほど静かだ。院長の小島敬史先生は慶應義塾大学卒業後、同大学の耳鼻咽喉科学教室で難度の高い耳の手術を数多く経験し、アメリカ留学では遺伝性難聴の研究にも取り組んだ。耳・鼻・喉を幅広く診る総合力を備えつつ、現在は補聴器診療に力を注ぐ。「『え?』と聞き返すのはもう中等度難聴のサイン」と語り、早期の装用が認知機能の低下を防ぐ可能性にも目を向ける。根拠を丁寧に示す論理的な説明はわかりやすく、気になることを聞きやすい雰囲気だ。難聴の種類や補聴器との向き合い方を詳しく聞いた。
(取材日2026年9月15日)
耳の手術で磨いた専門性を、補聴器医療に注ぐ
まず、先生のご経歴と耳鼻咽喉科に進まれた経緯を教えてください。

2006年に慶應義塾大学を卒業し、同大学の耳鼻咽喉科学教室に入局しました。耳鼻咽喉科を選んだのは、手術がしたかったことと、自分で診断から治療まで完結できる科に魅力を感じたからです。耳鼻咽喉科領域の中でもさらに専門を絞る段階で、耳の手術は難易度が高く、習得できれば自信につながるだろうなと思い、耳を専門に選びました。慶應で助教を務めた時期に耳の手術を数多く経験し、技術を磨きました。その後、2018年からアメリカのノースウェスタン大学に留学し、遺伝性難聴のタンパク質の機能解析の研究に取り組みました。難聴の原因を細胞レベルで再現する研究で、臨床とは異なる視点で耳の疾患を学ぶ機会になりました。
その後、補聴器の分野に注力するようになったのはなぜですか?
アメリカから帰国した後、改めて臨床の中で新しいテーマを探していました。そこで出合ったのが補聴器です。補聴器を専門にする耳鼻咽喉科の医師は非常に少ないのですが、社会的なニーズはとても高い分野だと感じました。難聴と認知症との関係性の研究が進み、補聴器の早期使用の重要性が注目され始めていたことも大きな動機です。医師の間では「治療法がないから仕方なく補聴器」というイメージもありますが、実際は違います。補聴器を通じて、ひいては聞こえにアプローチできる可能性もあるやりがいのあるテーマなんです。勤務医では理想を十分に体現できないと考え、3年ほどかけて物件を探し、開業に至りました。
クリニックの検査体制や診療の特徴を教えてください。

当院には聴力検査室が2室あり、そのうち1室は補聴器適合検査に対応しています。補聴器をつけた状態での聞こえを精密に評価できる環境を整えました。もう一つの大きな特徴は院内CTです。副鼻腔炎の診断ではCTにより炎症の有無を客観的に判断でき、治療後の評価もきちんと行えます。さらに耳のCT読影にも対応しています。耳の内部構造を熟知していないと正確な読影は難しいのですが、大学病院での耳の手術経験が画像診断の精度にもつながっています。そのほか、アレルギー性鼻炎の治療や舌下免疫療法、睡眠時無呼吸症候群に対するCPAP療法など耳・鼻・喉全般に幅広く対応し、お子さんの中耳炎やアレルギーの診療も行っています。
難聴の種類を見極め、一人ひとりに合った補聴器を
聞こえが悪いと感じた場合、どのような原因が考えられますか?

難聴は大きく「伝音難聴」と「感音難聴」に分けられます。伝音難聴は鼓膜や耳小骨、中耳といった音を伝える部分に原因がある難聴で、手術や薬での改善が期待できるタイプです。当院でも鼓膜形成術は局所麻酔による日帰り手術で対応でき、滲出性中耳炎の処置も院内で行えます。専門的な手術が必要な場合は大学病院へ紹介しています。一方、感音難聴は内耳や神経、脳に原因があり、治療が難しいことが多い難聴です。加齢に伴う難聴や突発性難聴が該当し、症状に応じて補聴器や人工内耳が選択肢になります。ご注意いただきたいのは、50代で「加齢性難聴」と放置されている方が少なくない点です。本来、聴力の変化が出るのは70代以降ですから、それより若い年齢での難聴には別の要因がある可能性があります。原因を問わず聞こえに困っていれば、補聴器の適応になり得ます。
患者さんに合った補聴器は、どのように選んでいくのですか?
まずは標準純音聴力検査で難聴の種類と程度を把握します。補聴器の適応があると判断した場合は補聴器適合検査へ進み、装用前後の聴力を比較して改善の程度を確認します。言葉の聞き取りの変化もスピーカーで評価し、特性検査で補聴器から出ている音が設定どおりかを確かめます。加えて、患者さんにご記入いただく質問紙で主観的な満足度も測り、客観データと合わせて調整を重ねていきます。院内では補聴器の認定技能者とも連携し、選定から調整まで対応しています。3ヵ月の貸出期間を設けていますので、まず試していただくことができます。難聴に伴う耳鳴りにも補聴器が有用な場合があり、お悩みに応じてご提案しています。
補聴器を使い始めるタイミングについて、先生のお考えをお聞かせください。

40デシベルを超える中等度難聴が、補聴器を検討する一つの目安です。日常の会話で「え?」と聞き返すことが増えていたら、それはすでに中等度難聴のサインだと考えてください。軽度難聴は雑音の中でたまに聞き違える程度ですが、普通の会話で聞き返すようなら決して軽い状態ではありません。早めの装用をお勧めする理由の一つに「聴覚剥奪」という考え方があります。難聴が進むと言葉を聞き取る力そのものが低下していくことがわかっていて、軽いうちから補聴器を使うことでその進行を抑えられる可能性が望めます。また補聴器には音に慣れる順応期間が必要で、体力のあるうちのほうが乗り越えやすいのです。ただし、ご本人のモチベーションが何より大切ですので、無理にお勧めすることは決してしません。どんな場面で困っているかをお聞きし、一緒に考えていきます。
早めの対処が、聞こえと認知機能を守る鍵に
難聴を放置すると、どのようなリスクがあるのでしょうか。

ある報告では、アルツハイマー型認知症の45%は予防できる可能性があるとされ、その最大の因子の一つに難聴が挙げられています。すべての難聴の方に適切な介入ができれば、理論上は認知症を7%程度減らせるかもしれないという試算です。難聴によって周囲とのコミュニケーションが減り、社会との接点が薄くなることで認知機能が低下するのではないかと考えられています。単一の原因ではなく、聞こえにくさからくる孤立感や気分の落ち込みなどが複合的に影響していると見られます。特に高血圧症や糖尿病、脂質異常症がある方は早めに補聴器を使ったほうが良さそうだともいわれています。まだ全容は解明されていませんが、早期の対処が認知機能を守る方向に働くという知見は積み重なっています。
そうした知見も踏まえ、日々の診療で心がけていることはありますか?
こうした知見を正しくお伝えするためにも、診療では根拠を示すことを大切にしています。診断名はできるだけ正式な名称を使い、検査結果をお話しする際も「ここがこうなっていて、こうだから、こういう診断です」と順を追って論理的にご説明するのが私のスタイルです。ガイドラインや論文のエビデンスをもとに、今どの段階にあり、どの治療が適切かをお伝えすることで、患者さんに納得していただけると考えています。理解を深めていただくことが信頼関係の土台になりますし、特に補聴器のように長く付き合っていくものは、最初の段階でしっかり情報を共有することが欠かせません。今後は言語聴覚士を迎え、補聴器の調整体制をさらに充実させたいと考えています。
最後に、読者へメッセージをお願いします。

ご家族やご自身の会話の中で、「え?」と聞き返す場面が増えていたら、それは中等度難聴のサインかもしれません。多くの方が「まだ軽いから大丈夫」と思いがちですが、聞き返しが出ている時点で、補聴器を検討して良い段階かもしれません。聞こえの変化に気づいたら、まずは耳鼻咽喉科を受診してみてください。検査をしてみると、手術や薬で改善が期待できる難聴が見つかることもあります。補聴器を勧められた際には、前向きに取り組んでいただければうれしいです。聞こえの改善をめざすことが、会話や生活を豊かにする一歩になると考えています。一人でも多くの方に届けたいという思いで、日々の診療にあたっています。

