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家で過ごしたい思いに応える
訪問診療と在宅での看取り

矢ヶ部医院

(佐賀市/佐賀駅)

最終更新日:2026/10/07

矢ヶ部医院 家で過ごしたい思いに応える 訪問診療と在宅での看取り 矢ヶ部医院 家で過ごしたい思いに応える 訪問診療と在宅での看取り
  • 保険診療

通院が難しくなったとき、医療とのつながりをどう保つか。その選択肢の一つが、医師が自宅や施設を定期的に訪ねる訪問診療である。佐賀市木原の「矢ヶ部医院」は1976年の開業以来、父の代から往診に取り組んできた医院で、2010年に継承した矢ヶ部伸也院長は、地域の在宅医療を推進する活動にも長く携わってきた。消化器外科を専門としてきた矢ヶ部院長が訪問診療で大切にしているのは、病気を診て治療をするということはもちろん、残された時間をどう過ごすかを本人と家族が考えられるように支えることだ。死と向き合うのは誰にとってもつらいこと。それでも向き合うことで、行きたい場所へ行き、会いたい人に会う時間が生まれるという。今回は、矢ヶ部院長が訪問診療で大切にしている考え方と、相談から利用開始までの流れについて聞いた。

(取材日2026年9月11日)

通院が難しくなっても住み慣れた家で過ごせるように、最期と向き合う時間まで支える訪問診療

Q訪問診療に力を入れるきっかけを教えてください。
A
矢ヶ部医院 前例がないからと諦めずに、やりようを考えると話す矢ヶ部院長

▲前例がないからと諦めずに、やりようを考えると話す矢ヶ部院長

当院は半世紀前に父が開業し、その頃から往診というかたちで地域に出ていました。継承した後も、通院が難しいので来てほしいという声は途切れませんでした。転機は、通院できなくなった患者さんから、それでも治療は続けたいと言われたときです。一人暮らしのご自宅では対応しきれないと諦めかけたのですが、訪問看護師に相談したところ、必要なときにそばについてくださることになり、在宅医療に移行することができました。一人の医師では無理でも、連携すれば家でできることがある。そう実感したのが、この道に進む大きなきっかけです。ちょうど佐賀でも在宅医療を広げようという動きが始まり、推進団体に加わって多くを学びました。

Q人生の最期を考える際に大切なことは何ですか?
A
矢ヶ部医院 ひとりひとりの「生」と「死」への価値観を大切にしている

▲ひとりひとりの「生」と「死」への価値観を大切にしている

状況は一人ひとり違いますし、私も日々試行錯誤しています。その上で申し上げたいのは、病状や今後について向き合うことを避け続けると後悔につながりやすいということ。死を前にすると、怖い、そんな話は聞きたくないという気持ちが先に立ちますが、少しでも現実と向き合えれば、行きたい場所へ行く、会いたい人に会う、大切な人へ言葉を残すといった選択ができるようになります。そうした時間を持てないまま過ごされる方を見るのは少し悲しくもあります。ただ前提として、本当に治癒が見込めない状態なのか医師に診断してもらう必要があります。その上で残された時間をどう過ごすか考えることは、決して生きることを諦めることではありません。

Q訪問診療はどのような方に向いているのでしょうか。
A
矢ヶ部医院 往診先で痛みの管理や褥瘡の外科処置に対応できるようにしている

▲往診先で痛みの管理や褥瘡の外科処置に対応できるようにしている

病気によって異なりますが、家族と一緒に自宅で過ごしたいという気持ちが強い方は、検討していただく価値が高いと思います。反対に、医療者がそばにいる環境のほうが落ち着くという方もいらっしゃいますので、そこはご本人の価値観次第です。病状の面では、比較的安定している方や、入院を続けても治療の手立てが限られている方が対象になりやすいですね。ご家族がお仕事で介護に手が回らない場合でも、訪問看護やホームヘルパーを組み合わせれば在宅で過ごせる方は少なくありません。ご家族が最初は不安を感じられるのは当然のことですが、支える専門家は一人ではありません。無理だと決めてしまう前に、一度ご相談いただければと思います。

Q多職種との連携で心がけていることは何ですか?
A
矢ヶ部医院 独居でも往診が可能なケースも。少しでも気になったら相談を

▲独居でも往診が可能なケースも。少しでも気になったら相談を

一言でいえば情報共有です。医師と看護師、ケアマネジャーがそれぞれ違うことを言えば、患者さんもご家族も不安になり、訪問診療ではなく入院しようという話になってしまいます。佐賀県には患者さんごとに関係者が書き込める情報共有の仕組みがあり、外来の合間でもその日の状況を把握できます。日々のやり取りに加えて、大きな方針を合わせておくことも重要です。当院では訪問看護ステーションの方々と勉強会を開いたり、在宅療養の考え方をまとめた冊子をお渡ししたりしており、ベクトルをそろえて考えを共有できるようにしています。支えるのはご本人だけでなくご家族の生活でもあり、介護の負担を抱え込ませないこともチームで見ています。

Q訪問診療はどこに相談すれば始められますか?
A
矢ヶ部医院 「在宅という選択肢を皆さんに知って欲しい」と話す矢ヶ部院長

▲「在宅という選択肢を皆さんに知って欲しい」と話す矢ヶ部院長

入院中であれば主治医やソーシャルワーカーに、ご自宅であればかかりつけ医やケアマネジャーにご相談ください。ご本人やご家族から直接当院にご連絡いただいても構いません。ご希望があればその日か翌日には伺い、どんなことができるのかをご説明します。お聞きになった上で、やはり見送りますということでも結構です。タイミングとしては、入院が続くうちに口数が減ってきた、寝ている時間が長くなってきたという場合は、早めにご相談いただきたいですね。高齢の方は入院が長引くと筋力や認知機能が落ちてしまうことがあります。急性期の治療中は難しいのですが、状態が落ち着いてからなら、自宅で過ごせる方は多いのです。

ドクターからのメッセージ

矢ヶ部 伸也院長

ご自身の病気のことを人に話す機会って少ないですよね。だからこそ、在宅医療でどんなことが行われているのかがまだ一般的には知られていません。実際には、ご自宅でエコー検査を行ったり、点滴のポンプや酸素の機器をすぐに用意できたりと、以前と比べてできる治療が増えています。医療機器も制度も、自宅で過ごすことを支える方向に進んでいます。ですから、家に帰りたいと思われたら、まずはご相談いただきたいのです。私が一番大切にしているのは、ご本人が過ごしたいかたちを実現することです。ご家族と気持ちがすれ違うこともありますが、そのときこそ一緒に考えます。家に帰りたいという願いを、一人でも多くかなえたいと思っています。