板垣 奈々 院長の独自取材記事
仁愛クリニック
(唐津市/唐津駅)
最終更新日:2026/08/31
唐津駅から徒歩10分、太陽をイメージしたオレンジが温かく迎える「仁愛クリニック」。2022年に地域で長く親しまれてきたクリニックを継承した院長の板垣奈々先生は、幼少期に腎臓の病気を患う家族のそばで育ち、医師を志した。一橋大学を卒業後、社会人を経て高知大学医学部に学士編入するという道のりを歩み、腎臓内科を専門に研鑽を積んできた。現在は内科や漢方内科など幅広い診療に加え、ほぼ自院のスタッフによる24時間対応の在宅医療体制を築いている。穏やかな語り口の奥に一本筋の通った信念がにじむ先生の原動力は、「家族と一緒にいられる時間を一秒でも長くしたい」という思い。患者に伴走する栄養指導や生活習慣病予防の取り組み、地域医療への想いを聞いた。
(取材日2026年8月17日)
命の1秒を大切に。患者に全力で向き合う原点
先生が医師をめざされた原点を教えてください。

私は幼い頃から、腎臓の病気を患う家族のそばで育ちました。食事制限があったため、他の家族と同じものを食べられず、いつか一緒にハンバーガーを食べたいと子どもながらに願っていました。通院のたびに付き添い、小学生の頃から食事をグラム単位で計算する毎日でした。唐津で一人暮らしをしていた祖父が、在宅医療の仕組みがなかった時代に誰にも看取られず亡くなったことも深く心に残っています。通院できない方が医療から取り残される現実を、幼いながらに目の当たりにしました。こうした経験から医師をめざし、高校時代に計画を立てて一橋大学を経て社会人となった後、高知大学医学部に学士編入しました。子育てしながらの医学部生活でしたが、すべての経験が今の診療の土台になっています。
こちらで開業された経緯をお聞かせください。
新型コロナウイルス感染症が流行していたとき、当時勤めていた病院で感染者を思うように診療できなかったことが転機でした。一方で、日本に滞在する外国人の知人から助けを求められ、言葉の壁に困る方々への医療相談を続けていたんです。その中で、自分が守りたい方を自分の医療で守りたいという思いが強まり、開業を決意しました。新たに立ち上げるのではなく、この地域で長く親しまれてきたクリニックを継承する道を選んだのは、通い続ける患者さんの安心を引き継ぎながら、地域全体の健康に貢献したいと考えたからです。クリニックカラーのオレンジは太陽をイメージしたもので、来てくださった方を元気に送り出したいという願いを込めています。
患者さんと向き合う上で心がけていることを教えてください。

「家族と一緒にいられる時間を一秒でも長くしたい」。それが私の診療の根本にある信念です。今この瞬間が当たり前ではないと思っているからこそ、目の前の患者さんを自分の家族だと思って全力で向き合っています。かつて師匠から「自分で治すと思うな。患者さんが自ら治っていく力を信じ、背中をそっと押してやれ」と教わりました。丁寧にお話しして、ご本人が持っている元気になる力を引き出すことを何より大切にしています。また、幼い頃から病気を患う家族の体調の変化を見つめてきた経験から、体重のわずかな増減や顔色の変化に気づくことは得意です。心電図の正常範囲内のわずかな変動も見逃さないよう心がけ、できるだけ早い段階で病気のサインを捉えられるよう検査結果の一つ一つに向き合っています。
信頼のチームで支える、24時間体制での在宅医療
在宅医療への取り組みについて教えてください。

当院の訪問診療は、診療前や昼休み、外来の合間を使って毎日行っています。訪問診療というと終末期をイメージされるかもしれませんが、私が大切にしているのは「生きるための訪問診療」です。一人暮らしの方や施設で暮らす方を日々見守り、元気を維持するサポートに力を入れています。腎臓内科を専門としてきた経験を生かし、心不全の管理など入院に近い水準の治療も在宅で行えると自負しています。さらに、通院が難しい方のために、自分の車を改造した移動診療車でご自宅前まで伺い、車内で診察することもできます。通院手段がないために医療から遠ざかる方を一人でも減らしたい。その思いが原動力です。
そうした取り組みを支えるスタッフについてお聞かせください。
当院では看護師6名がチームとなり、24時間の対応体制をほぼ自院のスタッフだけで支えています。外部の訪問看護ステーションと連携する場面もありますが、全体のごくわずかです。看護師が先に患者さんのもとへ伺って採血や点滴を進め、私が後から合流するなど、状況に応じて柔軟に動ける体制が強みですね。日中のうちに素早く対応することを徹底し、夜間の急変を防ぐことに努めています。小さな変化に早く気づいて手を打つことが、患者さんの安心につながると感じます。スタッフは本当に優秀で、私より詳しく患者さんの状態を把握しているメンバーもいるほどです。消化器や循環器を専門とする非常勤の医師にもサポートしていただき、チーム全体で患者さんを見守っています。
外来にはどのような患者さんが来院されていますか。

赤ちゃんから高齢の方まで幅広い世代の方が来院されています。ご家族ぐるみで通ってくださるケースも多いですね。忙しく働く女性の方には、できるだけその日のうちにエコーなど必要な検査まで進め、次回には結果をお伝えできるよう心がけています。私自身も子育てしながら働いてきたので、通院に時間を割く大変さはよくわかります。一人暮らしの高齢の方には、定期的に顔を見せていただくことを健康維持の一歩と考え、通院が日々の張りになるよう工夫しています。漢方内科として更年期の不調や不眠など西洋薬以外の選択肢をご希望の方にも対応していますし、大きな病院の検査結果を持って相談に来られる方も少なくありません。治療方針を一緒に考え、必要に応じて専門の医療機関へつなぐかかりつけ医の役割も大切にしています。
「一緒に頑張ろう」伴走する栄養指導と地域への想い
生活習慣病の予防にはどのように取り組まれていますか。

栄養指導には特に力を入れています。「薬を始めたらやめられない」と思って受診をためらう方もいらっしゃいますが、当院では生活習慣の改善を通じて薬を減らすことをめざした指導を行っています。日々の食事内容を聞き取り、1日の塩分摂取量を測定して現状を把握していただくところから始めます。3世代でお話しすることもあり、「あなたの食生活がお子さんへ、さらにその先の世代へとつながっていく」とお伝えしています。患者さんにお勧めすることは私自身もすべて実践していますし、食べたい気持ちは皆さん同じですから、時にはうまくいかない日があっても構いません。一方的に指導するのではなく、「一緒に頑張りましょう」と寄り添いながら歩む姿勢を何より大切にしています。
今後の展望についてお聞かせください。
今後さらに力を入れたいのは、がんの早期発見です。2人に1人ががんになると言われる時代ですが、検診で異常を指摘されても放置してしまう方が少なくありません。取り切れる段階で見つけることができれば、ご本人もご家族も苦しまずに済むかもしれません。研修医の頃、ある患者さんから「もっと早く先生に会っていれば助かったかもしれない。一人でも多く助けてやってくれ」と言葉を託されたことがありました。その約束は今も胸にあり、小さな異変を見逃さない診療を積み重ねていきたいと思っています。また、子どもたちへの健康教育にも取り組みたいですね。小さい頃から健康に関心を持ち、薬に頼らない生活の土台を築けるよう、医療の枠を超えた地域への働きかけを続けていくのが目標です。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。

今生きている1秒は、生きられなかった方の1秒でもある。私はそう思っています。当たり前の1秒ではないからこそ、少しでも体に不安を感じたときは気軽にご相談いただきたいのです。ご自分の体のことを一番わかっているのはご自身ですから、「どこかおかしいな」と感じた瞬間を、どうか見逃さないでください。私自身、幼い頃は病院で何を言われるかわからない怖さを感じていました。だからこそ、受診をためらう方の気持ちはよくわかります。お薬を始めたからといって、ずっとやめられないということはありません。一緒に悩みながら、あなたの毎日が少しでも輝くようにお手伝いできたらうれしいです。世代を問わずご家族皆さんで頼っていただけるかかりつけのクリニックをめざしていますので、何か気になることがあればいつでもご相談ください。

